目を覚ましたらなぜか記憶を失っていたおれ、渋谷有利。
自分の名前、それ以外はまったく覚えていなかった。
村田のおかげで少しは思い出すことができたけど……
思い出せないこともたくさんあって、ちょっと悩んでたんだ。
#5 失われた記憶
全身打撲により、左腕骨折に左足は捻挫、右手はひび。その他に擦り傷などなど…。
よくもまぁ、1度にこんなに多くの種類の怪我をしたんだか。
右手を骨折しなくて良かったなんて言ったら村田に
骨折の方がひびより早く治りやすいんだけどね、なんて笑われた。
で、怪我の治療やリハビリをかねて最低1ヶ月は入院しないといけないらしい。
体に負担がかかるのだろう、2~3日は起きあがることまで禁止された。
「ここに写っているのはおれの家族でお袋と親父と勝利。
そんでもってお前が友達で村田健……これで合ってる?」
「うん、それで合ってるよ。 渋谷にしちゃたいした記憶力だよ」
「………それって褒めてんのか?」
「やだなぁ~、褒めてるに決まってるじゃんか~」
「村田……目が泳いでるぞ……」
今は夏休みということだけあって村田は毎日病室に遊びに来てくれる。
そんなに気を遣わなくても大丈夫だって言ったって、
ボクには責任があるから、とおれの相手をしてくれるんだ。
おれの家族はというと
勝利は何かボブという人のところで勉強をするらしくて海外へ行った。
ゆーちゃんが怪我をしているのに行けるかーって喚いてたけど、親父に怒られて諦めたみたいだ。
そんな親父は銀行で働いているらしく忙しいからと夜遅くまで仕事に行っていて。
お袋だって家の用事があるのだろう、見舞いにきてくれるけどあまり長くは居られない。
結局村田がいつもそばにいてくれるおかげで淋しくないんだけどな。
「………渋谷?」
「あ、どうした村田?」
「何か物思いにふけってたからさ~、何か思い出したのかなと思ってね」
「いや……何もまだ思い出せないんだよね。 ごめんな、村田………」
「いいって、君とボクの仲なんだからさ~。そんな気にしないのっ!!」
いつも落ち込んだときに励ましてくれる村田。
きっと記憶を無くす前もこうやって一緒にいてくれてたんだろうな……。
でも。
村田とはただの友達という関係だけではないような………そんな気がするんだ。
もっと違う……深い絆というか………。。。
「ほら、そんなに悩まないでさ!! たまには空を眺めて気分転換しなよ~」
考えてることが顔に出たのか村田は明るくそう言うと窓際の方へ回って外を指さした。
空には雲なんて一つもなく、どこまでも綺麗な青空が広がっていた。
今まで考えていた悩みなんてとても小さく感じるほどに。
「……綺麗な青空だな」
「だろ? 悩んだり落ち込んだりしたときは青空を見るのが1番なんだよ。
…………と言っても、これは渋谷に教わったんだけどね」
「おれが……?」
「疲れたとき悩んでるとき泣きたいとき、そんなときは青空を見ればいい。
きっと大きな空が悩みを全部吸い取ってくれるから。
そういって悩んでたボクを渋谷が励ましてくれたんだよ」
「………そっか、いい言葉だな。 おれも悩んだら空を見ようかな~」
そう言ったおれを見て村田は微笑むと窓の外をまた眺めだした。
おれも空を見ていたんだけど、安心したせいか眠気がきちゃって……
そのまま心地よい眠りへと落ちていった。
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