ユーリが地球に帰って約1ヶ月―。
帰ってくる日を今か今かと待っていた俺の元に緊急の手紙が届いた。
発信元は眞王廟からで……。
挨拶の後に書かれていた内容は驚くものだった。
#7 失われた記憶
「………猊下っ!!」
「やぁ、ウェラー卿。いきなり手紙を送ってごめんね~」
「いえ、それよりユーリが記憶を無くしたって本当ですか!?」
「……それは本当の話だよ。僕が嘘を言ってるようにみえるかい?
渋谷の記憶を………取り戻してやってほしいんだ」
「猊下………」
「こっちの世界ではずっと君と一緒に過ごしてきたんだ。
このまま渋谷の記憶が戻らなければ………それはある意味渋谷の死を表す。
……ウェラー卿、この意味が分かるかい?」
猊下から送られてきた手紙には
ユーリが地球で事故にあったこと。
事故の後遺症で記憶をなくしていること。
大けがを負っているためにこちらに来れないということ。
そして最悪の場合、眞魔国に二度と戻れなくなる、という事だった。
「はい……。
いますぐにでもユーリに逢いに行きます。
俺が記憶を取り戻せるものならユーリの記憶を……」
それから地球に行く儀式を済ませたあと、
約1ヶ月の滞在を許され俺は猊下と地球へと旅立った。
ユーリの事は他の者には知られてはいけないので、
俺は長期の旅の任務に出ると城の者には伝えておいたと、後で猊下に聞いた。
「…………………誰?」
地球について病室へと入った俺にユーリが言った最初の言葉。
分かっていたことだったのに………やっぱり直接言われると傷つく。
不安そうにこちらを見上げてくるユーリを心配させないようにとニッコリ微笑む。
「あぁ、失礼。
俺はウェラー・コンラート……怪しい者ではありませんよ」
「そうそう、彼が昨日言っていた渋谷とよく一緒にいた人だよ」
「あっ!!村田、一緒に来てるなら言ってくれよ。
彼が昨日言ってた人?ってかおれ外国の人と知り合いだったのか!?」
後ろからついてきた猊下が俺の代わりに説明をすると、
いつも通りの的外れなツッコミをするユーリがいて、思わず笑みが零れた。
「……あっ!!ごめんな。おれ、記憶をなくしちゃってるみたいで。
まだほとんど思い出せてないんだよね」
そんな俺をみたユーリが苦笑いというか、照れたように頬をポリポリとかきながら謝ってくる。
「まぁ、渋谷の頭は××レベルだもんね!
思い出すのにはきっとまだまだ時間がかかるよ~?」
「ちょっ、村田!! いらないことは言わなくていいから! まったく……。
あんたはいつも言わなくていいことを言うんだから、おれが恥ずかしいだろ!」
「いいんじゃない? だって本当の事だしねvv
それじゃ、僕はジュースでも買ってこよ~っと」
「……ぁ。言い逃げすんなよ、村田~!!」
猊下はそれだけ言うと部屋から出ていった。
……あとは2人に任す、きっとそう言いたかったのだろう。
どう声をかけていいか分からなくて困っている俺にユーリは積極的に話しかけてくる。
「そういえば、コンラッ……えっと、コンラートさん?」
「呼びやすいのであればコンラッドでも構いませんよ。
それに、以前のユーリもそう呼んでましたから呼びやすいでしょう?」
「……うん、コンラッド! あ、そうそう。
あんたもさ、おれと話すときの敬語はなしな!
それにさ、どう見たってあんたの方がおれより年上だろ?」
「まぁ、たしかに俺の方が年上ですが……いつも敬語だったので、つい。
癖のようなものですから気にしないでください」
「あぁ、そっか。 癖だとなかなか治らないもんな~……」
どこかちょっと寂しそうな顔をしたユーリに俺は何を話せばいいのか迷って。
部屋に重い沈黙がおりた。
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