「……………みなさま、どちら様ですか?」
今でもユーリが言った言葉が頭から離れない。
あの言葉を聞いた時の俺はどうしようもなく落ち込んだ。
だから、心臓が凍るようなあの台詞を2度と聞きたくないと思ってた。
#13 失われた記憶
ユーリが目を覚ましたと聞いて急いで病室に駆けつけた。
病院だからと急ぐ気持ちを抑えてドアをノックしようとすると
ユーリが小さな子供に言い聞かせるように優しく誰かに話しかけていた。
きっと気配からして猊下になんだろうけど、どうしてそんな話し方をしているのだろうか。
「…色々と心配かけちゃって、ほんとごめんな。
村田の事だからさ、1人で全部抱えて悩んでたんだろ?
あの事故は俺が勝手に助けて怪我をしたわけだし、
今回の事件だって人質にじゃなくてもこうなったと思うんだよな~!」
ユーリが少し苦笑しながら言った。
しかし猊下の気配はあるものの、声は聞こえてこない。
聞こえてないって事はないはずだから猊下は眠っているのだろうか…。
「…だから、そんなに泣くなよ村田。
お前がそんなに泣いてたら、俺も…泣きたくなっちゃう、だろ…?」
「し、 渋谷…何も君まで泣かなくたっていいじゃないか……」
ふいにユーリの声が震え始めると猊下の慌てる気配と共に声が聞こえてきた。
普段ははっきりと言葉を言う猊下の声はかすかに掠れていた。
……猊下が泣いてた、だって?
あんなに俺たちの前で元気に振る舞っていた猊下が……。
「………俺は家臣として失格だな…。
ユーリしか頭になくて、1人で悩んでいた猊下に気付く事ができないなんて…」
思わずその場にしゃがみ込んで自分を呪った。
あのスポーツ雑誌も猊下が先に買っていたのに俺が先に渡してしまった。
今までもずっとユーリの事を優先して行動していた気もする。
俺はどんだけ猊下を傷つけてしまったのだろうか……。
考えていると、ふいに猊下の笑い声が聞こえてきて俺は耳を澄ました。
部屋の中から聞こえてくる猊下の心の底から笑っているような声は
自分を抑えてるようには感じなかったから俺はホッと胸をなで下ろした。
「ちょっ、笑う事ないだろ~村田っ!!!」
「だって渋谷の顔、記憶をなくす前のへなちょこの顔なんだもん。
記憶が戻って表情まで戻るとはさすが渋谷だね~」
「…へ、へなちょこいうなーっ!!!」
「まぁまぁ、それだけ記憶が戻ってるって事だろ?
渋谷、これは喜ぶべきことなんだよ? ほら~笑って笑って!」
「うぅー……なんか上手く話をまとめられてるような…」
ユーリが諦めたように笑い、猊下も再び笑いだした。
部屋の空気が明るくなった所でドアをノックして俺は病室へと入った。
ベッドの上には以前より怪我が増えたため包帯だらけのユーリの姿があった。
その傍には楽しそうに笑っている猊下の姿もあった。
「やぁ、ウェラー卿」
「おはようございます、猊下、ユーリ」
「もう少ししたら渋谷のご両親も来るそうだよ」
「そうですか」
俺と猊下が喋っていると、ユーリがなんだか心配そうな顔をして話しかけてきた。
なんだか少し前に見た表情と一緒で、とても嫌な予感がしたんだ。
「………村田の知り合い?」
「……ユーリ? 今、なんて…」
「何言ってんだよ渋谷~。ウェラー卿は君の……記憶に無いの?」
「もしかして俺の知り合いな……ひゃっ!?」
「ユーリっ!! 本当に俺のこと、覚えてないんですか!!?」
気が付いたら思わずユーリの肩を掴んで叫んでいた。
またユーリの記憶から自分が消えている事に焦ったのかもしれない。
ただ、今起きている事が信じられなくて冗談だとユーリに言って欲しかった。
-*- あとから追加されたあとがき -*-
ここまでお読みいただきありがとうございます☆
ユーリばかりを心配していた次男ですが猊下も心配になってきたらしいです^^*
おまけに心配事が増えたと思えば更に試練が待ってたという、ね。
早くゆーちゃんの記憶を取り戻してラブラブしてよコンラッドーっ!!!(ぇ
……というより、次男の回なのにムラケンが結構出てきてる?
各話によって語り手さんを変えてたんだけど、そろそろ無理がきそうです…orz
書きたい時に違うキャラの回だと話が進められないぞw
しかもこの連載…いったい何話まで行く気なんでしょうか^^;
続き、再び停滞する可能性大ですが…気長に待っててくださると嬉しいですvv
如月 ゅぅり 2009.01.19
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