珍しく書店で渋谷にあって浮かれてたのかな?
近づいてくるトラックにぜんぜん気付かなかったんだ。
突き飛ばされて振り返った先には、走ってくるトラックの前に渋谷がいて。
名前を呼んでも倒れたまま動かない渋谷に僕は恐怖を覚えた。
#2 失われた記憶
あのあと近くにいた人達が病院に電話をしてくれ、僕は止血をしたりしていた。
この怪我では渋谷は助からないかもしれない……昔の医者の記憶があることに絶望した。
記憶がなければまだ心の中に希望があったかもしれないのに。
「………渋谷、助かってくれよ。
太陽を無くしては月は輝けない………君がいない世界なんてつまらないよ」
「君、この子の友達? 一緒に病院まできてくれるかな?」
やがてやってきた救急車に一緒に乗り込み病院に向かった。
僕はどうすることも出来なくて、渋谷の手を握って助かってくれと祈り続けた。
そのあと緊急治療室に入った渋谷を見送って、待機室の椅子に座って待っていると、
病院から電話があったのか渋谷の家族が慌てて走ってきた。
「健ちゃん、ゆーちゃんはっ!?」
「……渋谷は今、治療室で手術を受けています」
「何でお前がちゃんとゆーちゃんを見てなかったんだよっ!!!」
渋谷のママさんはいつもの明るさはなく慌てていて。
いまにも泣きそうな感じだったのがとても居たたまれなかった。
お兄さんは僕に掴みかかってどうしてちゃんと見てなかったんだと怒鳴ってくるばかりで、いつもの冷静さが無かった。
「……勝利、村田君が悪い訳じゃないんだ。落ち着きなさい」
そういってお兄さんを僕から引き離してくれた。
けどやっぱりパパさんも顔色がいいとはいえない状態で……。
「………すいません」
「いいのよ、健ちゃんのせいじゃないわ」
ただただ、渋谷が助かってくれと皆気持ちは同じで。
手術中のランプが消えるまで誰1人として口を開かずに待っていた。
過ぎていく時間がとても長く感じた。
やがて手術中のランプが消えて、出てきたベッドに横たわる渋谷の体には
あちこちに包帯が巻かれていていつもの元気な渋谷の姿は無かった。
しかし、命は取り留めたようで僕は正直ホッとした。
昔と違って医療の技術が進歩していたおかげで助かった。
「ゆーちゃんは、ゆーちゃんは大丈夫なんですか!?」
「ユーリ君のご家族の方ですか?ちょっとこちらの部屋でお話しを……」
出てきた先生にママさんが尋ねると帽子を外して僕たちを見ると、
渋谷が運ばれていった部屋とは別の部屋に案内された。
「ユーリ君の状態ですが、当初は非常に危険な状態でしたが。
今は落ち着きましたので、あとは目を覚ますのを待つしかありません」
「じゃぁ、ゆーちゃんは大丈夫なんですねっ!?」
「はい、まだ目が覚めないと詳しいことは分かりませんが……
しばらく入院が必要ですのでユーリ君の着替えなどを持ってきてください」
そのあと色々と説明を受けて渋谷の家族は荷物を取りに家に帰っていった。
僕は渋谷の寝ているベッドの横で渋谷が目を覚ますのを待っていた。
「渋谷、目を覚ましてくれ……」
いつもより少し冷たい渋谷の手をギュッと握り、祈った。
このさい渋谷が魔王だろうが神頼みをするしかなかった。
それと同時にこんな目に遭わせた眞王を少しだけ恨んだ。
そして渋谷を守ることができなかった自分にどうしようもなく腹が立った。
それから3日間、渋谷は目を覚まさずに眠り続けた。
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