目を覚ましてくれと渋谷のそばで祈り続けて4日目。
渋谷が目を覚ました。
だけど………………。
目を覚ました渋谷は全ての記憶を失っていたんだ。
#4 失われた記憶
シンと静まりかえった部屋の空気を破ったのはやっぱり渋谷だった。
「あははは、記憶が無いなんてどこのドラマかよって感じだよな~!!」
「…………渋谷……」
明るく振る舞う渋谷に僕は涙がでそうになった。
本当は1番ショックを受けているのは渋谷のはずなのに。
渋谷の家族のみんなも驚いていた。
人を思いやる優しい心は無くしてはいなかったことに少しほっとした。
僕もなるべく空気を明るくしようと渋谷に冗談交じりに返しながら簡単に自己紹介をした。
「まさか実際に起こるとは僕も思わなかったよ~、さっすが渋谷だね!
僕は 村田 健。君とは中学校からの付き合いなんだ……ムラケンって呼んでね!」
「……ムラケン?」
「そ、ムラケンズのムラケンだよ。ちなみにムラケンズの相棒は渋谷だよ?
ボケが僕でツッコミが渋谷。いつもの的はずれなツッコミ、期待してるよー?」
「え、おれが相棒なのかよっ!? しかもツッコミ担当?
………っていうか、ムラケンズにおれの名前すらないじゃん!!」
「おぉ~!! 相変わらずノリがいいね、渋谷っ♪」
「あー、待て待て。お前らだけで話しを進めるな!」
せっかく調子に乗ってきたのに渋谷のお兄さんに止められた。
オレを差し置いてゆーちゃんと仲良くするなとでも言いたそうな目だ。
「オレはお前の兄貴、渋谷 勝利。 お兄ちゃんって呼んでも構わないぞ?
ちなみに将来は東京都知事になる予定だ。」
「……ぉ、お兄ちゃんっ!?」
やっぱり記憶を無くしても違和感が残っているのだろう、渋谷が慌てだした。
お兄さんは相変わらずのブラコンだ。
嘘を教えて間違えた方向に渋谷を誘導しようとしている。
「そんなにビックリしなくても大丈夫だよ、渋谷。
いつも君は勝利って呼び捨てで呼んでたからさ、お兄さんに騙されちゃだめだよ?」
「てめっ、何バラしてんだよ!! せっかくのチャンスだったのに………。
第一お前だっていつもムラケンじゃなくて村田って呼ばれただろうがっ!!」
「あっちゃー……バレちゃったか。
ま、そんなに怒らないでよ、渋谷のお兄さんvv」
「……っていうか、お兄ちゃんなんて呼ぶ奴なんているのか?
ま、改めてよろしくな勝利!」
せっかくのチャンスを失った渋谷のお兄さんは部屋の隅に座り込んで落ち込み始めた。
お兄さん同様、美子さんも渋谷にママと呼ばせようとしてたみたいだけど。
これは僕が教えなくとも自分で気付いたようだ。
多少ではあるが、少しは記憶が残っているようだ。
まぁ、一応最終確認で僕に聞いてきたけど。
お兄さんと美子さんのおかげで渋谷の僕に対する信頼度がちょこっと上がったみたいだった。
「…………あ、そうだったゎ。
明日は勝ちゃんが海外へ出たりでちょっと病院に来れないけど、ゆーちゃん1人で大丈夫?」
いろいろと話している最中に渋谷のママさんがそう言えば、と何かを思いだしたように渋谷に話しかけた。
それに慌てたのはやっぱり渋谷のお兄さんだった。
「お袋っ!? ゆーちゃんがこんなときに行けるかよ!
俺は日本に残るからな、あとでボブに電話しておくよ」
「渋谷のママさん、明日は僕が渋谷についてますから。
お兄さんの見送りに行ってきてください」
「おまっ!! 何言ってんだよ!」
「そうね。 じゃぁ、ケンちゃんにお願いしようかしら」
結局、日本に残ると言い張るお兄さんをパパさんが一喝して海外へ行くことに、
僕が渋谷のお見舞いに行くということで話しは一段落した。
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