今まで過ごしてきた記憶や異世界での職業も、おれが目指してる世界も。
少しずつだけど確実に記憶が自分の中に戻ってきているんだ。
……でも1つだけ思い出せないんだ。
この心がポカポカと温かくなる記憶の中で嬉しそうに笑っているあの人は…誰?
#14 失われた記憶
彼はおれの言葉に慌てたように…とても切なそうな顔をして肩を掴んできた。
おれはただ、何が起こってるのか分からなかった。
「……ほんとうに…俺の事を…忘れちゃった、んですか?」
彼のその言葉に胸が締め付けられた。
どうしてか分からなかったけど、胸が痛くなったんだ。
彼はそのまま部屋から出ていってしまった。
そのまま追いかけて行きたかったのに体が動かなかった。
「渋谷、どうして彼の記憶だけが戻らないのか分からないけど…」
それから村田に聞かされた話に、おれの目から涙が止めどなく溢れた。
どうやらとても大切な人の事を忘れていたらしい。
おれの名付け親で、眞魔国では護衛をしていて、キャッチボール仲間だった。
一度だけ、彼はおれの元を離れたけどちゃんと戻ってきてくれて…
いつでもどこに行くのも一緒で、とても仲が良かったらしい。
「……おれ、なんでコンラッドの事を忘れちゃってるんだろ」
1人になった部屋でポツリと呟く。
コンラッド以外のみんなの事は全部スッキリ思い出したのに、
彼の事だけ頭の中からキレイさっぱり消えてしまって残っていない。
よくTVとかでも1番大切な人の事ほど忘れるなんて聞いた事あるけど…。
村田の話から推測してもきっと大切な人だったのだろう。
「おれ…コンラッドに酷いこと言っちゃったよな…」
「そんなことありませんよ」
「……コ、コンラッド?」
突然返ってきた言葉におれは驚いた。
コンラッドは部屋のドアの前に微笑みながら立っていた。
コンラッドはおれの側まで歩いてくるとベッドの縁へを腰を下ろした。
さっきとは違いとても落ち着いていておれは少しホッとした。
「すみません、ノックしても返事がないので心配して入ってしまいました」
「……あ、ごめん。考え事してて気付いてなかったかも…」
「俺の事ならそんなに気にしなくて大丈夫ですよ」
「でも、おれ…コンラッドの事を…」
「大丈夫、これから少しずつ思い出していけばいいんですよ」
そう言うとコンラッドはにっこりと微笑んでおれの頭をそっと撫でてくれた。
指で髪を梳くように撫でる手がとても気持ちいい。
思わずうっとりして体をコンラッドに預けるように倒した。
そんなおれにコンラッドは嬉しそうに笑った。
「嬉しいですね、こんなに俺を信用してくださるなんて」
「…って、ごめん。ついつい撫でてくれる手が気持ちよくて…」
「そんなに謝らないでくださいよ、ユーリ」
我に返って謝るとコンラッドは困ったように笑い、それに、と付け加えた。
「以前のユーリもそうやって髪を撫でると俺に体を預けてくれてたんですよ」
「……そうだったの?」
だから謝る必要なんてないんですよって。
コンラッドから離れたおれを肩をそっと引き寄せてくれたんだ。
あぁ、そういえば前にもこんな事があったよな~なんて頭のどこかで思った。
……確か、おれが眞魔国に行き始めて間もない頃だったかな。
執務をサボって馬で城を抜け出した時…丘の上でホッとしていた時だったはず…。
一緒に隣で草の上に寝ころんだ誰かがおれの髪を撫でてくれたんだ。
……それが、コンラッドだったのかな?
記憶の中では黒い人影としてしか残っていなくて表情が分からない。
でも、とても温かくてホッとできる存在だった。
「……おれの…記憶……コン、ラッド…」
そうだ……。 おれが危険な事に直面するたびに側にいて助けてくれて
おれが敵に襲われそうになった時だって体を張って守ってくれて
おれの為を思って1人で側を離れて行った時はとても悲しかったし
おれが眠れない時はずっと側にいてくれた。
いつもずっとおれの側に…コンラッドはいてくれたんだ。
「……ユーリ?」
「コンラッド…おれ、今まで忘れちゃっててゴメンな…」
ギュッとコンラッドを抱きしめた。
そんなおれをコンラッドも抱きしめ返してくれた。
おれの大切な大切な記憶…コンラッドと過ごしてきたすべて。
「……おかえりなさい、ユーリ」
「うん……ただいま、コンラッド!」
おれはやっと…やっと自分の世界に戻って来れたんだ。
-*- あとがき -*-
ついにゆーちゃんの記憶復活でありますね!!!
でも、最初予定していたのと全然違う思い出し方なんだけど…(笑
こんな所で秘密を暴露ですが…
当初の予定としては病院での事件がもっと長くなって、
コンラッドがユーリを守って怪我をして、それを見たユーリが思い出しかけるっていう…
原作でもあったあのシーンを思い出しかけるはずだったのですよ。
まぁ、予定を立ててもすぐに気が変わって
打ってる文を書き直す奴なんで…あくまで予定、ですもんね^^;(←
そしてそして、記憶を取り戻したと言う事で…次回、最終話になります。
ずっと更新停滞していたので、なるべく早めに書けたらいいな、と思います。
如月 ゅぅり 2009.01.26
[0回]
PR