全ての記憶を取り戻したおれ、渋谷有利。
やっと思い出してスッキリしたけど…
大変な事を1つ見落としてしまってたんだ。
それは、おれの怪我もすっかり治りかけた頃だった。
#15 失われた記憶
重度の怪我も治療とリハビリによって普通に動けるくらいに回復した。
そりゃリハビリは大変だったけど、コンラッドがずっと側に居てくれたから。
いつもいつも励ましてくれて…おれは頑張る事が出来たんだ。
「良かったね、渋谷。 明日はついに退院だね!」
「ついに退院できるーってか、1ヶ月も入院とか長すぎだもんな!」
「そりゃ、渋谷の怪我が半端なかったしね~」
まぁ、これでも普通の人よりは早く治ったらしいんだけどな。
どうやら記憶を取り戻した事によって身体が正常に戻ろうとしたらしい。
よく詳しい事は分からないけど、心配する事がなくなった分治療に集中出来たとか…。
そんな事を村田と話しているとドアがノックされて開いた。
「ついに明日は退院ですね、陛下」
「もう…陛下って呼ぶなよ名付け親のくせに。ついに明日退院だよ!」
「すいません、ユーリ。 それにしてもスゴイ荷物ですね」
「渋谷ってば帰る気満々でもう準備はすっかり済んじゃってるんだ」
「それはまた…それなら今日退院とか無理なんですかね、猊下」
「書類関係上どうしても明日になるみたいなんだよね」
退院する準備は全部終わってるのに明日にならないと帰れない。
まぁ患者はおれだけじゃないし、大きな病院だから忙しいんだよな。
かれこれ1ヶ月ちょっと入院してたけど
村田もコンラッドも毎日来てくれるから全然寂しくなかった。
リハビリにも付き合ってくれたし、暇な時は話し相手になってくれてた。
「あれ……そういえば、コンラッドって何時までこっちに居れるの?」
「「……っ!!!」」
おれが聞いた瞬間、村田とコンラッドが固まった。
何か聞いちゃいけない事でも聞いちゃったかなーなんて思ったら
「…ウェラー卿、こっちの世界にきてどれくらい経ってるか覚えてるかい?」
「ええっと…そうですね、1ヶ月とちょっとくらいですかね……」
「え、何かマズい事でもあったのか?」
何だか2人が慌てだしたのを見て心配になる。
だって普段冗談を言ってばかりの村田が難しい顔をしてるんだもん。
しばらく村田が考える素振りをした後に口を開いた。
「実は…ウェラー卿が地球に滞在を許されているのは1ヶ月なんだ、渋谷」
「つまり、コンラッドが眞魔国に帰れないかもしれないって事…?」
「まだ可能性は残ってはいるけど……まずは渋谷が退院してからだね」
「「………?」」
コンラッドと2人して首を傾げたが、村田はそれ以上詳しくは教えてくれなかった。
明日また来るよとだけ言い残し村田とコンラッドは帰っていった。
― 次の日の朝 ―
「やっほー、渋谷! ついに退院だね~」
「あ、村田…そういえば、コンラッドの事どうするんだ?」
「それはこれから分かる事だよ、とりあえず渋谷の家に帰ろう!」
ウェラー卿には先に伝えてあるから心配ないよって、村田は笑った。
それから荷物をまとめて書類上の手続きを済ませ、親父の運転する車で家に向かった。
ものすごく久し振りに家に帰って来れて、ちょっとホッとした。
「さ、渋谷! 久し振りに家に帰ってきた事だしちょっと散歩に出ようか!」
「……え、ちょっ村田っ!!?」
「いつもの公園で待ち合わせだよー」
そう言うと村田はおれ背中を押して外へと出た。
コンラッドを公園に待たせているから、と急ぎ足で公園へと向う。
まだ退院したばかりなのに走っても大丈夫なのだろうか、なんて頭の片隅で思った。
公園まではそこまで遠くないから10分もしない内に着いた。
入り口ではコンラッドが時計を見ながら待っていた。
村田は俺とコンラッドの手をとりそのまま噴水へと走っていく。
「さぁ、役者も揃ったことだし、いっちょ行ってみるか~!」
「………へ?」
「…猊下、何をおっしゃて…っ!?」
村田は訳の分からないことを言うと噴水へ飛び込んだ。
もちろん手を握られてる俺もコンラッドも一緒に噴水の中に落ちた。
-*- あとがき -*-
あとがき
如月 ゅぅり 2009.**.**
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