眞魔国に無事に帰って来れたおれと村田とコンラッド。
ギーゼラさんの治療によって足の傷も治って
今までの事がすべて嘘だったみたいに毎日が過ぎていき。
心地よいこの時間をとても愛おしいと思うになった。
#17 失われた記憶
宿から血盟城に戻ると溜まっていた仕事を片付けろとグウェンダルに怒られ
おれは黙々と書類に目を通して署名をしていく日々を送っていた。
「はぁぁー…腕がもう限界、動かないよー……」
バタリと机に伏せて大きなため息をはいて目を閉じる。
部屋には誰もいないから怒られることもない。
今だから思うんだけど、あのまま記憶が戻ってなかったらどうなっていたんだろう。
魔王とは無関係な平凡な高校生として生きていったのだろうか。
こんなに山のような書類と向き合わなくて良くて、疲れることもなかっただろうか。
「でも、魔王になってから色々とおれも変わってこれたんだよな…」
大好きだった野球もまた始めることができたし、色んな国の人と出会って仲良くなれた。
きっと、魔王なんて仕事に就いてなかったら大好きな野球も諦めたままだったし。
こんなにも大切な仲間がたくさん出来ることもなかっただろう。
そこまで考えておれは今回の事件で一番悲しませてしまった人物を思い出した。
「コンラッドには辛い思いをさせちゃったよな……」
そう、おれは一部の記憶を取り戻せてもコンラッドの事だけ思い出せなかったのだ。
おまけに思い出せた矢先に再び彼だけを忘れてしまっていたりして。
あの時のコンラッドの悲しそうな顔が今でも頭から離れない。
そんな事を考えていると部屋のドアがノックされて開いた。
「ユーリ、そろそろ休憩にしませんか? ずっと篭もりっぱなしでしょう?」
そう言って持ってきた紅茶とお菓子をそっと差し出してくれた。
彼はいつでもタイミング良くおれを助けてくれるんだ。
「ありがとう、コンラッド! じゃ、いただきまーす!!」
おれはお礼を言うとカゴに入っていたクッキーを手に取り口へと運んだ。
ふんわりと甘い香りがして疲れた体を癒してくれた。
そんなおれを見てコンラッドはふわりと嬉しそうに微笑んだ。
気になって首をかしげると、それに気付いたコンラッドが教えてくれた。
「そのクッキー、俺がメイドさんに習って焼いてみたんですよ?」
「……っ!? コンラッドがこのクッキーを作ったの!?」
「えぇ、少し焦げたり形が歪だったりしますけどね」
そう言って照れくさそうにコンラッドは肩をすくめて再び微笑んだ。
それを見て、毎回おれの為に一生懸命になってくれる彼に罪悪感がどんどん生まれてきて…
気が付くと頬を冷たい雫が流れていて、自覚が無いことに自分で驚いた。
もちろんそれを見ていたコンラッドも驚いて訳を聞いてくる。
「ユーリっ!? どうしたんですか…クッキーが美味しくなかったですか?」
「………あ、ごめん。 クッキーはすごく美味しいよ!」
「じゃあ、どうして……」
心配そうに顔を見てくるコンラッドにおれは思いを打ち明けることにした。
…だって、これ以上彼の表情を曇らせたくなかったんだ。
「だって…コンラッドが、優しいんだもん」
「……と言いますと?」
「おれ、あんなにコンラッドを傷つけたのに…」
「……ユーリ。あの事なら俺はもう気にしてませんから、どうか泣かないで」
そう言って優しく抱きしめてくるコンラッドの体温が心地よくて更に涙が出てきて。
挙げ句の果てにはしゃっくりが混ざってきて止める術が分からなくなった。
「本当、にごめん、な…コンラッド……おれ、あんた、の事…忘れちゃ、うなんて…」
「大丈夫、大丈夫ですよ、ユーリ。 それにね、貴方が記憶を無くして得た物もあるんですよ?」
「……得た、もの?」
「えぇ。 それは貴方と過ごす時間が何よりもかけがえのない物だって気付けた事です」
おれの肩を掴んで離し、顔の高さを合わせるようにしゃがみ、彼はもう一度繰り返した。
「ユーリと過ごす時間がとても大切で失うことの出来ないものだって分かったんです」
「そんな、事…」
「…そう。当たり前の事なのに、一緒にいるうちに忘れてしまっていたんです」
微笑みながらコンラッドは思い出させてくれてありがとう、だなんて言ってきたんだ。
おれはよく意味が分からなくて、頭の上に?マークをいくつも浮かべて首を傾げた。
そんなおれに彼は苦笑すると頭をポンポンと優しく撫でて言ってくれた。
「いいんです、意味が分からなくても。 ただ、ありがとうって言いたかったんです」
「……訳分かんないよ。 でも、少しだけ分かるような気もする」
普段は何気なく当たり前に過ごしている時間は本当はとてもかけがえのない物で。
失ってから気付くことがきっとたくさんあるのだと思う。
だから今回の事は悪い事でもある反面、良い事だったのかもしれない。
だって、今こうやって過ごしている時間も大切な思い出に変わるのだから。
いつかはこんな事もあったね~なんて笑いあえる日が来るのだろう。
「……あー、なんか泣いたらお腹空いてきちゃった!」
「陛下、鼻水出てますよ? そりゃぁギュンター並みに…」
「ギュンター並みにって……っていうか、今わざと陛下って呼んだだろ!」
「いえ、いつもの癖でつい。 すいません、ユーリ」
「嘘だっ!! だってさっきまで普通にユーリって呼んでただろ~っ!?」
「……そうでしたっけ?」
「絶対にわざとだな…。 それよかコンラッド!」
「……どうしました?」
「書類もだいぶ片付いたしさ、少しだけ……」
「城下に遊びに行きたいなー、ですか?」
「…っ!! そうそう、それ!」
「そう言うと思ってましたよ。 はい、コレに着替えて出掛けましょうか」
「おうっ! 城下に下りたらまずは腹ごしらえしなくちゃだよな~!」
「ユーリ、そんなに大声で騒いでたらグウェン達に見つかっちゃいますよ?」
「あ、そうだった…こっそりと抜け出さないとだもんな!」
「えぇ、こっそりとね!」
そうやって2人して笑いあって、支度を済ませてこっそりと城を抜け出した。
きっともう少ししたら様子を見に来たギュンターが叫んで場内が騒がしくなるに違いない。
☆おしまい☆
- * - * - あとがきのようなもの - * - * -
うぅぅぅー、よかった……ようやく話が終わったよ、やったぁーっ!!!
初っ端から叫んですいません、如月です←
一体どれだけの年月をかけて書き終わったんだよっていうね。(笑
こんな話を最後まで読んでくださった方には本当に感謝感激雨霰です!
ほんっとうに、ありがとうございました!!
ハッピーエンディングで終われて良かった…!
結局何が書きたかったのか自分で分からなくなったんですが(←
とりあえず、幸せに終われればすべて良し!みたいな?
番外編とか…あるのかな………いや、たぶん無いです。無いです。
きっと書く気力とかもう無いですよ、もともと文才ないですしね~…(遠い目
万が一…いえ。億が一、書くことがあったとしたら読んでやってください←
ではでは、本当にここまで読んでくださってありがとうございましたっ!!!(ぺこり
2010.05.21(Fri)...03:05
[0回]
PR