Happy time
~A flow of time returned~
ねぇ、コンラッド。。。
あんたが好きだったよ?
ずっとずっと前から好きだったんだ。
あんたは困るかもしれないけど。
ずっと言いたかった気持ち。
この命が果てようと、ずっとずっと変わらない。
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大賢者である村田にはおれの姿こそは見えないが、声が聞こえる。
何故かというと……おれは、すでにこの世界には存在しない姿となってしまっているから。
とある事件に遭遇し、結果的におれは死んでしまった。
村田とは今までのように楽しく話をしたり笑いあったりできる。
おれはとても幸せで………だから村田の気持ちなんて考えた事がなかったんだ。
こうやって過ごすのも楽しいけど、やっぱり渋谷の顔が見たいな、なんて。
笑いながら言った村田の表情はとても悲しそうで。
おれはかける言葉も見つからず、ただ……村田の側にいることしかできなかった。
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とてもよく晴れた日。
太陽が眩しいほどに輝き、少し冷たい部屋に暖かい空気を運んでいた。
「おれは、何で幽霊になってここ(血盟城)にいるんだろうなぁ~」
ぽつりと呟いて、1人で考えても。
どうしてこうなったのかなんて、全然分からない。
「せめて、眞王廟に行けたらいいのに……でも何かあったら怖いしな……」
村田だって、眞王廟ですることがあるからこっちに来る事はそう多くはない。
だけど、明らかに前よりは血盟城に来る回数も増えている。
………でも、村田がいないときは寂しさが募っていくだけだった。
「ほんと。 どう、して……こんな事に、なっちゃったんだろう、な……」
周りでは普段通りに時が流れていって。
自分1人取り残された感じがして……とても淋しかったんだ。
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今日はどう1日を過ごそうかだなんて、考えながら部屋にプカプカと浮いていると
「…………失礼します」
自室の部屋がノックされた。
返事を返したけど、きっと聞こえてはいない。
……誰も居ない部屋に何か用事かな?
軽い挨拶が聞こえた後、ドアを開けてコンラッドが入ってきたんだ。
コンラッドの手には、あの日……おれの運命が狂ってしまった日に、
おれが城下で買った袋が下がっていた。
コンラッドは誰に言うでもなく、ポツリポツリと話し出す。
「これは……あなたがあの日、持っていた物ですよね?」
「……そうだよ、おれが買いに行ったんだから……」
「クルミを買って、あなたの事だから皆を思ってチョコを作ろうとしたのでしょう?」
「さすが名付け親だな……そこまで分かっちゃうとはね……」
どんなに返事をしたって、おれの声は届くことがなくて。
「どうして……俺が帰ってくるのを待ってから、一緒に行ってくれなかったのですか?
残された俺はっ、どうやって生きれば……。ユーリがいない世界なんて……っ」
「………コン、ラッド。……ごめん、本当にごめんな……」
「…俺はっ……何を頼りに、生きていけば………」
とても辛そうに、苦しそうに吐き出された言葉。
本当の心からの叫びを聞いた気がしておれの胸がギュッと締め付けられた。
「………コンラッ、ド………」
だって、あんなに約束したのにな。
絶対に無茶はしない、そう約束しあって別れたのにさ。
おれは、その約束を破ってしまった。
涙が頬を伝って滑り落ちた。
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ポタリと床に水が落ちる音がした。
最初は何の音かななんて思って床を見たら濡れていた。
「………水?」
「でも、どこから……?」
コンラッドも気付いたのか、床の水滴を見つめる。
しばらく床を見ていたコンラッドが今度は慌てて天井を見上げた。
そこは、ちょうどおれがプカプカ浮いている場所。
「………コン、ラッド……?」
「ユーリ……もしかして、そこにいるんですか?」
「っ!! ……そうだよ、おれはここにいるよ!」
「もしかして、泣いてるんです……か?」
声を上げて叫んだって、コンラッドにはやっぱり声は届かなくて。
伝えたい言葉があるのに伝えられない―。
どんなに叫んだって思いは通じず。
結局自分はこの世界にいても何もできないと思い知らされるだけで。
その場に居たたまれなくなったおれはドアをすり抜けて自室から出た。
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行く場所もなくフラフラと飛び、執務室へ入る。
おれが残していった書類や懸案事項をグウェンとギュンターがまとめていた。
本来ならおれもこの席に座ってサインなどを書いていた。
でも………今はもうそんな事すらできない。
そんな事を考えていると、静かに書類に目を通していたグウェンが話しかけた。
「ギュンター……次の魔王のことなんだが……」
「……えぇ、新しい魔王を決めなければ国が動いていけませんしね。
ですがユーリ陛下が亡くなられて1週間……未だに信じられないのに……」
「まぁ、死んだおれだって実感が沸かないのに無理もないよな……」
ギュンターは胸ポケットからハンカチを取り出すと涙を拭いた。
それを静かに見ていたグウェンダルが話しを切り出した。
「だが。だからこそ次の魔王を決めて…あいつの目指した世界を作らねばならん。
私はあいつの言っていた世界を、作り上げてやりたいと思う」
「平和で戦いのない……誰も傷つくことのない幸せな世界を……」
「………グウェン、……ギュンター…………ありがとな」
おれが目指していた世界。
こんな考えなんてバカにしかされてないと思ってた。
なのに、こんなに真剣に……考えて。
グウェンとギュンターの優しさに思わず涙が零れた。
「私が考えるにはコンラートが1番適役だと思うんだが……お前はどう思う?」
「魔王候補にコンラートですか? …そうですね、私も賛成です」
確かに、コンラッドは適役かもしれない。
でも、あんたは喜んで引き受けてくれるのかな……?
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再びグウェンとギュンターが静かに作業をし始めた頃。
部屋のドアがノックされ、返事を待たずにコンラッドが入ってきた。
「……コンラート、何か捜し物か?」
「いや……特に捜し物と言うわけではないんだが……」
そう言いつつ床を見て回るコンラッドが気になったのか、床を覗き込む2人。
しかし特に目立った物は落ちていない。
「…………あった。やっぱりここに……」
「コンラート、何があったんだ?」
「水滴……ですか?」
コンラッドが見つけたのはおれがさっき落とした涙。
幽霊になって涙を流すと涙は現実の世界の物となり、存在する。
おれもさっき知ったというばかりなのに……
コンラッドにはそれがもう分かったというのだろうか?
不思議そうに見ていた2人にコンラッドが質問をする。
「俺がくるまで、ここで何か話をしていたか?」
「……話か?話なら次の魔王を決めなければと話していたところだが……」
「ユーリ陛下が造ろうとした世界を私達で作っていきましょうと、ね」
「………そうか。やっぱりこの部屋に来ているのか……」
「コンラート? あなた以外には誰もこの部屋には来てませんけど?」
しばらく考え込んでいたコンラッドだったけど、首を傾げる2人に告げる。
「俺の考えは正しいか分からないが……ユーリはまだこの世界にいる」
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「……コンラート、陛下が居なくなって悲しいのはよく分かる。
だが、ちゃんと現実の世界を見ろ! 心を無くしてはいけないぞ……」
「そうですよ、コンラート。あなたの悲しみは痛いほど分かりますが……」
グウェンダルは眉根を寄せて弟を叱り、ギュンターは悲しそうに弟子を慰めた。
ただ、コンラッドはそれを聞こうとはしなかった。
「ユーリが……本当にいるかもしれないんだ! 俺が冗談でこんな事を言うはずがないだろう?」
「……だが、現実的に考えても有り得ないだろう……」
「どこかに、陛下が居るという証拠があるのですか?」
「なら、眞王陛下はどうなるんだ?」
「「…………」」
コンラッドが言う言葉を少しは信用したのか、言葉を抑えて喋る二人。
だけど、まだ信じられないというような顔だ。
「証拠って訳でもないが……この水滴が、ユーリの物かもしれない」
「この、水滴が……か?」
「あぁ。さっきおれが陛下の部屋に行った時に水が落ちる音がしてこんな風に跡が残っていた」
「ですが……」
って、おれが落とした涙をそんなにまじまじと見るなよな!
必死になって涙を隠そうと手で覆ってみたけど対して変わりはない。
だって、おれの手……物に当たらないもん。
自棄になって手で床に落ちた水滴を擦るような素振りをする。
「む~。くっそーっ!!!」
「………え?」
「え、何……って。嘘ぉっ!!?」
床に落ちていた水滴が動いた……っていうか、伸びた。
コンラッドもグウェンもギュンターも触ってないって事は……おれが動かした?
「……やっぱり。 ユーリ、そこにいるんですか??」
答える変わりに指に力を込めて水滴を突いて文字を引く。
英語で1つの単語をつづった。
「……Yes…」
「いえす、とは何だ、コンラート」
「Yesは陛下の育った世界の異国の言葉だ」
「……で、なんと言う意味なのですか?」
「………はい、だ」
こうして、おれは離れていた世界から1歩帰って来れたような気がした。
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それからの血盟城は慌ただしかった。
急いで眞王廟から村田を呼んだりして、会議が開かれた。
「猊下っ!!どうしてユーリがまだこの世界に残っているということを
俺達に教えてくださらなかったのですかっ!?」
「そうですよっ!!この世界にユーリ陛下がまだいらっしゃるということは
私達に何か伝えたいことがあったんじゃないですかっ!?」
「……まったくもって、信じられん……」
「婚約者のボクにくらい教えたって良かっただろうが!」
みんなで村田に向かって意見を言う。
ってか、みんなそんなに怒らなくってもさ……。
そんな中、黙ってみんなの意見を聞いていた村田がぽつりと言葉をもらした。
みんなは騒いでて聞こえなかったみたいだけど。
そばに居たおれにははっきりと聞こえた。
(…だからこそ、知られたくなかったんだ……)
ただ、ポツリと呟かれた言葉に胸が痛くなった。
だって、呟いた村田の表情はとても悲しそうで今にも泣き出しそうだったから。
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とりあえず、あの後は村田が笑顔でみんなに謝って解散となった。
さっきまで泣きそうな顔をしてたくせに。
……無理に笑顔なんて作らなくてもいいのに…。
「………村田、ごめんな。大変な思いばっかりさせちゃって……」
「そんなこと慣れてるから大丈夫だよ、渋谷。」
そうやってニッコリ笑う村田がとても小さく見えて。
おれは胸がチクリと痛んだ。
何もおれの前でも強がらなくたっていいのに。
おれがこの世に残ったせいで村田は大変な思いをしているわけで……
「村田に迷惑けるくらいならおれさ、成ぶ…「そんなことしないでくれっ、渋谷!!」
「………む、村田?」
「渋谷がこの世界にいなくなったら、僕は何のために生きればいいんだ……」
「……ごめん、もうそんなこと言わないから…おれの前では強がらないで泣いたっていいんだぞ?」
「……ありがとう、渋谷。でも僕は大丈夫だからさ、心配しないで」
そう言いつつ村田の流した涙はキラキラと光ってて、とても綺麗だと思った。
そのあと村田は笑顔で眞王廟に戻っていった。
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村田が眞王廟に帰ってから俺は部屋の中でいろいろと試してみた。
コンラッドの前で水を動かせたみたいに何か出来ないかと思ったんだ。
「う~ん……難しいなぁ~」
さっきから目の前の花瓶に触ろうとして失敗している。
手が花瓶をすり抜けて掴む事すらできない。
さっきは床に落ちてる水には触れる事ができたのに……
「……確かさっきは必死で隠そうとして………っ!! もしかして…?」
今まで魔力を使った時と似た感触が少しだけどあったんだよな。
気を集中させて手を花瓶へと近づけた。
花瓶まであともう少し、あともうちょっと、あと数センチ……。
花瓶へ指先が触れる感覚が体全体を走った。
「やった……って、わわっ!?」
花瓶に触れる事が出来て喜んだのもつかの間。
気を許した瞬間に再び物へと触れる事ができなくなってしまった。
どうやら物に触れるには一定の力が必要なようだ。
でも、物に触れるようになっただけでも大事な第一歩だ!
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空をフワフワ浮いたり、地面の上を歩いたり……そして、物を触れるようになった。
とはいえ、物に触るためには力を必要として長くは無理なわけで。
まだまだ練習が必要って感じだ。
「でも、触れなかった時よりはマシになったよなぁ~」
本当は自分の姿や声が相手に聞こえればいいのに……。
そしたら直接みんなと話ができるのにな。
もしかして物を触る時みたいに力を使えば声も聞こえるようになるのかな?
そんなことを考えながら自室のベッドに座っていたら、部屋のドアがノックされた。
「この部屋にいるか分からないですが……起きてますか?」
「……あ、コンラッド。 おはよ~」
部屋に入ってきたのはコンラッドだった。
おれの存在に気付くまではとても暗い表情をしていたけど、今はいつもどおりだ。
でも、こんな朝早くになんの用だろう?
とりあえず、この部屋にいることを知らせようと特訓の成果を試した。
手の先に集中してコンラッドの肩を軽く2回叩いた。
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「……っ!?」
「って、ぅ…ぅわ……痛ぅっ!!!」
「ユーリっ!?」
肩を叩いた瞬間、コンラッドはビクリと肩を振るわせて振り向いた。
こんな彼を見た事がなかったから、おれもビックリした。
「いててて………って、あれ?」
ビックリした拍子に床に背中から倒れたおれは違和感に気付く。
…………ん? コンラッドの手が当たって倒れ、た?
おれ、幽霊だから物に触る事ができないのに? ………どうして?
「ユーリっ、どこにいるんですか?」
「お、おれはココにいるよ、コンラッドっ!!!」
「……ココってどこらへんで…………ユーリ?」
「ココだってば…………あ、あれ?」
おれが倒れている方をコンラッドが見ていた。
--**--**--**--あとがき--**--**--**--
………あれれ? なんだこの展開は……
シリアスから遠退いていってるような気がするんですが?
まぁ、最後はハッピーエンドにしようとは思っているのですが内容はシリアスがいいな☆
ついに次男には陛下が見えるようになったのかどうなのか……次号を待て!(ぇ
今回のサブタイトルは日本語に訳すと『戻った時の流れ』と言う意味。
みんなと時間を共有できるようになった~みたいな感じです。
……だって。 ゆーちゃん1人ぼっちじゃ可愛そうだったんだもん……(ぇ
こんな展開になるのもありだよね?ね?
このお話はご想像通り、続いていきます。
暗くなっていくのか幸せになっていくのか……如月さんの脳内しだいですね^^*
なかなか更新するまでの期間が長いですが、楽しみにしてくださってる方がいると嬉しいですvv(←
2008.08.19...14:14
[1回]
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