地球にやってきて2日目。
用事があると連絡を入れた俺は本屋へと向かった。
ユーリが喜んでくれると思って買っていったスポーツ雑誌。
思っていた以上に喜んでくれて、俺もつられて笑顔になった。
#10 失われた記憶
本屋で買った雑誌をユーリが嬉しそうに読んでいる姿を見ると
記憶をなくしてるなんて嘘じゃないのか、と思うくらい。
「すっごく楽しみにしてたんだよね、これ!
病院の売店には売ってないって聞いてたから読めないかと思ってたのに」
「さすがはウェラー卿だね、渋谷の欲しがってる物が分かるなんて」
「いえ、ただ単に飲み物を買いに行ったときに目に入ったので買っただけなんですけどね。
こんなに喜んで貰えるとは思っていませんでした」
そんな事を言ってはみるけど、本当は分かっていて買いに行った。
体が動かせなくて退屈そうなユーリを見ていると可愛そうで……少しでも力になりたかった。
とりあえず買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れておこうと歩いた瞬間、猊下が目の前に出てきた。
「それ、ボクが入れといてあげるから渋谷の所に行ってていいよ」
「ですが、猊下にそんなことを頼んでは……」
「そんなの気にしなくてもいいからさ、ほら」
手に持っていた袋を取り上げられて呆然としている俺の背を猊下はぐいぐいと押してきた。
どこか猊下の様子がおかしい気がするのは気のせいだろうか……。
それとも俺は猊下の気分を損ねる事をしてしまったのか。。。
とりあえず、言われた通りにユーリの元へと戻る。
「なぁ、コンラッド! このページ特集すごいんだぜ!?
おれの大好きなあの人が1ページにでっかく載ってて、やっぱ格好いいなぁ~」
「ユーリの好きな選手はこの人なんですか?」
「うんっ!この人はおれの野球の師匠でもあるんだよね。
小さい頃に見た野球の試合で一目惚れしちゃって、それからずっと大ファンなんだ!」
開いているページを指さして嬉しそうに微笑んでくる。
それにしてもユーリの対応能力には驚いた。
まだ会って1日しか経ってないのに俺にこんな風に笑いかけてくれるなんて。
まぁ、そこがユーリのいいところでもあるんだけど……。
「今日は何かしたい事があるかい、渋谷?」
「え~っと、特にはないけど……やっぱリハビリ、かな?
退院した時に体が動かせないと不自由だし、野球ができないしね!」
「それじゃぁ、俺たちもお手伝いしますよ」
「じゃ、そん時はヨロシク頼もうかな? …って、1人じゃ無理な時だけでいいけどさ。
何でもかんでも甘えてちゃ自分のためにならないしね?」
そう言って笑うユーリにつられて俺と猊下も笑う。
幸せな時間がゆっくりと過ぎていった。
とりあえず、時間がまだ早いからという事で病室でトランプを始める。
指の感覚と記憶力を鍛えると言う事で神経衰弱をすることに……。
目の前のテーブルにズラリと並べられたカードを慎重に1枚ずつ引いていく。
「あぁ~!! これだと思ったのに、どこで間違えたっけな?」
「何言ってんだよ、渋谷。 君が探してるのはコレとコレでしょ?」
「分かってるなら言ってくれよ~」
「教えちゃったら勝負にならないだろ、渋谷。
ついでにコレとコレも覚えてたんじゃないかな?」
「……っ!! せっかく覚えてたやつを当てていくなよ!
ってか、よくおれが覚えてるカードがどれか分かったな?」
ワイワイと盛り上がりながら1ゲームが終了した。
もちろん優勝者は猊下。2位が俺で3位がユーリだったんだけど、
ユーリは納得がいかないようでもう1ゲーム申し込んできた。
次のカードを広げる前に猊下がお手洗いに行くと言って席を立ったので
俺は飲み物を取りに冷蔵庫のある場所へと行った。
その間にユーリがカードを一生懸命混ぜていた。
冷蔵庫を開けたときに隣の棚の中に袋が入っているのに気付いて中を覗いてみた。
「…………こ、これは……」
袋の中に入っていたのは俺が買ってきた雑誌が入っていた。
俺のはユーリが今読んでるから違う……となると、猊下が買ってきてたことになるわけだ。
「まさか猊下はユーリにこれを……っ!!!」
1人で部屋を出ていった猊下を追いかけるため、俺も部屋を慌てて飛び出した。
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