今度こそ僕が渋谷を守るんだって決めてたんだ。
でも壁にぶつかって倒れた渋谷を見た瞬間、
僕の体は凍ったように動かなくなってしまった。
渋谷を失ってしまうと思ったら怖くて体が勝手に震えた。
#12 失われた記憶
ふらりと力無く立ち上がった渋谷の体の周りからは
あちらの世界で感じた時よりだいぶ弱いけど、魔力を感じた。
いつもと違うオーラを感じて僕は少し不安になった。
記憶を無くしてしまった渋谷に魔力は操ることができるのだろうか…。
「…………し、渋谷?」
「余がせっかくチャンスを与えてやったにも関わらずその所行…断じて許すわけにはいかん!
命を取るのは本意ではないがやむを得ぬ、お主を斬る! …成敗っ!」
いつもより短い台詞を吐いた上様モードの渋谷が言い終わると同時に
いつもなら見事な水竜が現れる…はずだった。
しかし日本には眞魔国の要素を含んだ物がないためか何も起こらない。
どうやら日本の魔族に従う要素と眞魔国で従う要素は違うらしい。
ずっと昔からの記憶を引き継いできた僕なのに、初めて知った事実に驚いた。
ウェラー卿もいつもと違う事に気付いたらしく、戸惑っていた。
「……陛下?」
「くっ、余の力はこっちの世界では使えないと言うのか……」
もちろん渋谷の中の人…上様もいつも通りにいかない魔術に驚いたようだった。
何度か試した後、諦めたように渋谷の体が崩れ落ちた。
渋谷自身の体力的にも保たなかったらしい。
「くそっ、脅かせやがって…ぐあっ!!!」
驚いて渋谷から離れていた犯人が再び寄りつく前にウェラー卿が倒した。
逃げようとしていた数人もあっさりと降参し大人しくなった。
それから警察が乗り込んできて犯人を捕まえ、
病院は怪我人の手当や問い合わせの電話で大忙しだった。
渋谷も悪化してしまった傷の手当てを受けたが、ずっと眠り続けている。
きっと魔力を使った上に適応していない環境だったため負担も大きかったのだろう。
事件をTVで見た渋谷のママさんと仕事の途中で抜けてきたパパさんも病院へ飛んできた。
特にママさんは急いでやってきたのかエプロン姿のままだった。
「家で洗濯物たたみながらTVを見てたらニュースが速報で入ったのよ」
「それでエプロン姿のままだったのですね」
「ゆーちゃんが人質だって聞いて心臓が止まるかと思ったもの」
「……俺が付いていながらこんな事になってしまって申し訳ありません」
「いいのよ、ゆーちゃんの事だからきっと自分から首を突っ込んだのでしょう?
いつも正義を貫いてるから見過ごせなかったんだわ」
ママさんは落ち込んでいるウェラー卿を慰めるように背中を叩いた。
渋谷だってもともと怪我をしていたからこうなった訳で。
……本当は僕が1番攻められるはずなんだ。
そんな事件の噂も静まり始めた頃、ようやく渋谷は目を覚ました。
ちょうど病室には僕しか居なかったから
他の人を呼びに行こうとしたんだけど、渋谷が僕の名前を呼んで引き留めた。
「おれさ、こっちの地球でも何かやらかしちゃった?」
「………渋谷?」
こっちの地球でもって…まるで他に世界がある事を知っているかのようだ。
記憶を無くしてしまった渋谷はあちらの世界の事は忘れていたのに。
「ほら、また上様化とかしちゃったんじゃないかなーって…」
「…記憶が戻ったのか、渋谷?」
「うん、戻ったというか…一部だけなんだけどな」
「そっか、良かった……ほんとに……」
記憶の一部が戻ったと聞いた瞬間、頬を温かい物が流れていった。
それが涙だという事に渋谷に言われるまで気付かなかった。
「ちょっ、村田!!? 泣いてんのか?」
「だってこのまま渋谷の記憶が戻らなかったらどうしようってずっと…」
次から次から流れてくる涙は拭いても止まらなかった。
ただ渋谷はバカだな~ってずっと背中を優しく叩いてくれていた。
-*- 今日から始まるあとがき -*-
長い間停滞していたこの小説。
大変長い間お待たせしちゃってすいませんでした^^;
拍手で続きの催促のコメント、とても励みになりましたvv
文字書きにとって続きを待っててくださる方は1番の活力なんです☆
さてさて、今回の内容……上様化しなかったというオチで(←
マニメでは地球で上様化してた気もするけど…。
それはさておき、
やっと記憶を取り戻しつつあるゆーちゃんでありますが、どうやら一部しか戻らず。
とても心配してたムラケンは一部でも戻った事がきっととても嬉しかったんだろうね^^*
ずっと背負ってた責任から解放させてあげたかったのに遅くなってごめんね…orz
これからはいつもどおりの明るい健ちゃんが出せるかと思いますvv
続きはどうなっていくのかお楽しみに☆(ぇへ←
如月 ゅぅり 2009.01.19
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